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加虐の皇子と愛玩ドール
第8章 仮想忘憂
あまねく時が静止した錯覚にもいざなわれる、果てないような暗闇が、深更の凄寥も相殺せんまでの嬌音、野性的な粘液を弾くあられもない水音に、冠水していた。
みおりは、橙色の豆電球の仄かな明かりにぼやかされた寝室にいた。
時刻は午前零時を回ったところだ。チェストに置いたハンズフリーの電話の子機から、しどけない喘ぎがこぼれていた。
『ぁっ、はん……あっ、ぁん、はぁっ、は……ぁ』
少女の切迫したソプラノが、か細く、大胆に、さしずめ生死の狭間へ引きずり込まれていった様相を仄めかす。敏活に上ずる息遣いは、おそらく、躊躇だの羞じらいだのがとっくに昨日に置き去りにされてきた結果だ。
ただし、少女の唇の訴えるものは、その肢体から立つ摩擦音、とろみのぬるま湯に浸した肉をもてあそんででもいる風にも聞こえる水音に比べて遠い。みおりが通話を始めて早々、子機の向こうで喘ぐドールに、ある規則を課したからだ。
「ほづみ」
『はぁっ、……』
「今、どうしているか……言ってごらん?」
『触って、ます──……ぁっあんっ…………鏡の、前で…………裸になって、……性器に、ぁぁ、いじ、わるっ、して……』
「それくらい聞けば分かるよ」
『はい……ぁあっ、はぁっ……みおりさんの、ご指示通り、電話機は……ほづみの、下の、お、お口にあてて、ぁっ…………ぁっ、あぁん……左胸の乳首を、指で挟んで…………んんっ、はぅ、クリにお汁を塗り、ながら……ぬるぬるの、クリも…………指で、はぁっ、こねこね、…………ぁっ、あぁ……っっ』
くちゅくちゅ、ぺちゃ、きしきし、びちゃっ…………と、ほづみに備わる意思表示における性能を言えば、言語にも匹儔する雑音が、色濃くなった。
ほづみの住まいは、みおりがあえて通話という手段を用いらねばならないほど遠方ではない。
みおりがこの八歳年下の少女を遊戯の相手にするようになったのは、昨年の暮れ、友人の経営しているバーで、妹として彼女を紹介されたのがきっかけだ。それはほづみの姉、つまりみおりの友人もといバーのマスターの利得が紐づく事情もあったにせよ、みおりがほづみと今も関係を続けているのは、畢竟、相性が合ったからだ。精神的なところは二の次だ。加虐嗜好と被虐願望、双方のニーズの一致を含めて、いわゆる身体の相性とやらが芳しかった。