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加虐の皇子と愛玩ドール
第8章 仮想忘憂
かくてみおりは、今、職場もといアダルトグッズ製造販売会社の本社地階、商品開発部の管轄する一帯の隅の化粧室にいた。
花叶も一緒だ。午前中、顔面のプライバシーを死守していたマスクを外して、仲良く化粧をしているところである。
「やっと、私の顔が戻ってきました。まぁ、さっきまでのが本当の私の顔ですけど」
「花叶ちゃんさぁ、呑気じゃない?昨夜のこと、さっさと警察に相談行けよ」
「──……。ただの喧嘩ですから」
「…………」
みおりは、鏡を見つめる。
ホワイトブロンドの短髪に、ダークカラーの皇子服、俠気ほのめく目許にグレーのコンタクトを合わせたみおりの風采は、生粋の日本人で正真正銘の女、そうした事実を屡々疑われる所以があるらしい。
ただし今日に限っては、歌劇スターだのホストだの、好き勝手には形容されまい。みおりは花叶に化粧品の一切を借りた。ピンクベージュのアイカラーにピンクコーラルのチークパウダー、花叶のころんと愛らしい化粧ポーチにヌーディトーンのルージュなどもちろん入っているはずもなく、唇も、瑞々しいグロスが輝いていた。
「──……。ちょっと待って」
「はい?」
「私、一日マスクで過ごした方が良かったんじゃ……」
「いえいえ、先輩っ、ピンクも似合います!」
花叶が力んで両手を組んだ。
ともすれば生まれつき顆粒層に染み込んででもいたようだ。薄紅は、花叶のまばゆいかんばせに、今しがた刷いたばかりとは信じ難いほどしっくり馴染みきっていた。おまけに本人の輝きようは、つい数時間前みおりの手を握って震えていたことさえ嘘に思える。
「……いっそ目茶苦茶にすれば良かった」
「え?…──ぁっ、……」
みおりはリボンタイをほどいて、花叶の手首に巻きつける。からきし抗う気配を見せない後輩は、ものの五秒と経たない内に、リードを繋いだペットよろしく従順になった。
リボンタイを引っ張り寄せる。
「先輩……あ、の……ひゃんっ、……」
花叶の身体が傾いて、肩が、ぴくんと跳ねた。
妖艶な息が上がり出す。みおりは花叶の小さな乳房を、淡々としごく。弾力を帯びたなだらかな丘陵、花叶の手のひらサイズの性感帯は、豊満ではなきにせよ、感じやすさは一等級だ。ただ指先を動かして、視線を軽く重ねるだけで、頼りない声がほろほろこぼれる。