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加虐の皇子と愛玩ドール
第8章 仮想忘憂

「くすぐっ、たい…………ですぅ」

「不覚だったな。何で助けたんだろ。身体に痕でも残せば良かった」

「あぅ、はぁぁ……やめ、て、下さい……」

「逃げるなり押し返すなりすれば?携帯電話を足で操作して、私に助けを呼べるくらいの行動力はあるんだし」

「ぅっ、はぁ、はぁ……」

「花叶ちゃん、恋人以外によそ見したことないだろ。しかも男ばっかり。固いこと言ってないで、たまの良い機会だ……自分のために考えてみなよ」

「いつも、考えて、ます……」

「人間は星の数ほどいる。たった一人だけ選んで、そいつが他のやつらより特別だって、何を根拠に言い張れるの。そもそも性別にしたって、好きになったのが偶然女だったとか、理由もなしに男を好きになっていたとか……そういうのしょっちゅう聞くけど、要は周りに振り回されて、自分をオールマイティにこじつけたがって口にしている屁理屈じゃん。それか純愛に酔いしれてる。セフレにおいても恋人においても、自称ノンケは特に犯しがちなミス」

「わ、たしは……彼が、好きなだけ……」

「あれだけの目に遭っていて、まだ、好きだって言うんだ?」

「──……。ぁっ!!……」

 みおりはリボンタイをひとしお強く引っ張った。花叶の重みを受けとめて、腰に腕を巻きつける。

 みおりの唇と花叶の柔らかな首筋が、じきに触れよう塩梅になった。

「はぁっ、……」

「──……」

 衣服を脱がせて白い果実をまさぐって、すみずみまでキスしても、きっとなすがままになる。

 みおりはいたいけな腕からリボンタイをほどいて、ブラウスの襟に結び直した。

「先輩……?」

「冗談」

「…………」

「また、用があったら呼んで。用心棒でも営業代行でも」

「あっ、待って下さい、先輩」

 みおりは化粧室を出る一歩手前で振り返る。

 表情の読めない花叶の顔が、みおりを見上げていた。

「有り難うございます。……ごめんなさい。でも諦められないんです。長い間一緒にいると、遠慮とか、礼儀とか、そういうの忘れがちになりますよね。特に家族やパートナーって。私達、そういう時期に入ったんだと思います」

「倦怠期ってやつ?」

「私に飽きたこと、……撤回させるくらい、自分を磨いてみせます」

「…………」

 馬鹿馬鹿しい。折角の美人も台なしだ。

 みおりは、今度こそ階上へ戻っていった。
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