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加虐の皇子と愛玩ドール
第8章 仮想忘憂
みおりはほづみと並んでソファに落ち着く。
昨夜は文明の産物をフル活用していたところ、その善良な所産によって一気に転落、見事に娯楽を断ち切られた。みおりは折り畳むように電話を切った。そうしながら通話をオフにする間際、ほづみと早口で会う約束をした。
しかるに今朝から、身体が、今夜こそ生のほづみを愛でるつもりになっていた。だのにそうした気勢もそがれるメールを寄越されて、押しかけてきた努力も空しく、結局、話を聞くだけの羽目になりかけている。
みおりは焦れったさをもて余しながら、とにかくほづみの話に耳を傾けることにした。
「それで、どうやばいの?」
「はい、あの」
ほづみがぽつりぽつりと語り出す。
話によると、ほづみはゼミナールの議論に出席しては、得意のSM官能小説における分析、考察、所感を口頭なり文なりの手段で発表して、同級生や教授に高く評価されていたという。ところが先日、普段は無縁の作家を勧められた。
ほづみは、さる女流作家の手がけるマゾヒストの心理が綴られた文学作品を得意としていた。ほづみの傾倒している作家の描く主人公は、ほぼ全ての主人公が女性だ。しかし、ほづみが教授に借りて目を通した著作は男性作家、というよりも、問題は、男性のマゾヒストが主人公に据え置かれているところにあった。
「ウチのゼミは、官能小説を独自に解釈するだけではダメなんです。誕生した国や時代の風土、社会背景、国民性及び彼らの性的傾向、願望、或いは宗教の問題にまで発展します。古き時代の官能小説は、当時の文化の資料集としても十分に使える、それが教授の口癖です。私の読み解きは甘いようです。女性のマゾヒストが主人公ならともかく、男性のマゾヒストだと違うみたいで……。教授曰く、卒業論文にも差し響くだろうから、今の内に理解しておかなくてはまずいようです」
「だったらさ、教授に聞けば?男のマゾヒストの何たるか。ほづみが一人で勉強したって、進歩ないだろ」
「…………」
ほづみが重々しげに息をついて、バッグのファスナーを開けた。いつもり膨らんでいたバッグから、文庫本が四冊、出てきた。
「『跪く王』、『淫奔のスゝメ』、『良人緊縛』、『鏡の国のハネムーン』…………何、この教育に悪そうな本」
「問題の作家の著作です。これを全て読んで、レポートを再提出しないと、単位がもらえないそうです」