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加虐の皇子と愛玩ドール
第8章 仮想忘憂
「──……」
「…………」
「…………」
みおりは、優雅なレースのテーブルクロスに散らかった文庫を眺める。
ふっと、みおりはある結論に思い至った。
「ほづみ」
「何ですか?」
「これ、読む気?」
「読まないわけにはいきません」
「読んで理解出来る見込みは?」
「──……」
みおりは文庫を積み上げる。
それから偶然上に来た一冊を拾い上げると、頁をぱらぱらめくって眺めた。
「手伝うよ」
「本当ですかっ?!」
「要は、ほづみは女心しか分かっていない。だから本を読むだけでは勉強にならない」
「つまり……どうすれば?」
「イメトレ。早い話が、男装」
「…………」
「──……」
「…………」
「…………」
「──……。……はいっ?!」
みおりはほづみに、正気を疑いたいと言わんばかりの目で睨まれる。
「いける案だと思わない?」
「思いません。……っ、第一…………そんなので理解出来るくらいなら、レポートを書き直せだなんて言われてません。みおりさんはいつも皇子服ですけど、理解出来てるんですか?男心」
「しようと思えば出来るんじゃない?私がマゾなら、の話だけど」
無論、口から出任せだ。変身モノのフィクション映画やアニメの世界ならともかく、ここは現実だ。
「──……。服だって、……持ってません」
「ほづみ」
みおりはほづみの外気の名残の染みたウエストを抱いて、華やかなロールケーキを聯想する袖にくるまれた腕をやおら掴む。仄かなブーケの匂いがした。シャンプーとケーキを足して割った儚い匂いは、しっとりとした首筋にいつもまとわりつくものだ。
「私だって、ちょうどこんな化粧をしてるんだ。ご主人様が身を呈して留年から救ってやろうって言っているのに、飼われている身の君は、その好意を無下にするわけ?」
「っ、それと、これとは…………みおりさん、だから、何で今日はそんなにピンク──…」
「ほづみのためだよ」
「ぁっ、……」
「服なら私のを着れば良い。部屋に預かってもらってるやつ、適当に着な?」
ほづみの劣情をかき立てるらしい、少し低めの甘い声、みおりは愛玩ドールの耳殻を最も顫わせる自分の声で、その耳殻をふわりと撫でた。
「…………」