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加虐の皇子と愛玩ドール
第8章 仮想忘憂







 今でこそ見慣れているにせよ、ほづみのデコレーションケーキよろしく豪奢で可憐なロリィタ服は、はっと目を惹く存在感がある。オーソドックスな丸襟ブラウスに肩フリルとサイドバッスルが特徴的なサーモンピンクのジャンパースカート、ほづみはそれらに続いてパニエもドロワーズも脱ぎ捨てて、みおりの普段着に袖を通した。

 極細のシルバーストライプの入ったチャコールグレーのブラウスに、共布フリルのあしらってあるベスト、シンプルな黒いスラックスをとり合わせたドールの姿は、ことのほか様になっていた。
 ほづみはロリィタスタイルが定着しているとは言え、その容姿は、千般あるスタイルをまといこなすファッション誌のモデル達に共通しているところがある。とりわけかんばせはくっきりとした目許に通った鼻梁、文句のつけどころのない白亜の素肌のまばゆさが冴え、みおりがほづみの栗色の髪をサイドで編み込みにして一つにまとめてやると、それこそ童話にまみえる皇子を彷彿とする雰囲気が出た。

 愛らしい。そして、魅惑的だ。
 やんごとなき姫君も良いが、これはこれでいけるかも知れない。

「やっぱり、似合いませんよ……」

「似合ってるって。綺麗だ、……ほづみ」

 全身鏡に映ったドールを、後方から包み込む。みおりは爽やかな甘みを醸す首筋に唇を寄せて、悪戯なキスを押しつけた。

「ぁっ、……」

「──……。見せて。ほら、……」

「うぅぅ……でもこれ、みおりさんの、お洋服なんですよね……」

「問題でも?」

「恥ずかしいです……」

 ほづみの大きな目が泳ぐ。みおりはほづみの視線を追って、鏡に映った愛玩ドールを眼差しだけで撫で回す。

「みおりさんに、……抱き締められてる、みたいで…………どこもかも包まれてるみたいで…………恥ずかしい、です……」

 ほづみの腕が、彼女自身を抱き締める。顫える睫毛、微かに上気する頬、みおりはやはり鏡を直視したがらない双眸を追いかけながら、ほづみのぬくもりを指先にゆっくりと刻みつけていく。

「ん、……」

 みおりはほづみの肩から腕にかけての僅かな凸凹を味わいながら、手のひらを滑らせていく。片腕に華奢な胴を捕まえる。今にも目を瞑らんとおぼろな眼差しを宙に据えたドールの鎖骨をさすりながら、耳朶を舌先で転がして、時折、ふぅっと息を吹きかける。
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