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加虐の皇子と愛玩ドール
第8章 仮想忘憂
「大体、君、一人暮らしでしょう。直すまで段ボールを貼っただけの窓で生活する気だったんですか」
「はい」
「はい、じゃありませんよ。最近の若いモンはとんでもない。お姉さんもだよ。後輩の面倒も見られんとは、けしからん。空き巣でも入ったらどうするんです。君達の話が事実なら、彼氏ですか、そいつが、また、君に乱暴しに来るかも分からないんですよ」
「彼には合鍵を渡しております。窓から入ってくることはありません」
みおりは花叶と、また、大家にぶつくさそしられる。
「花叶ちゃん」
「……はい」
「何で、私まで呼ばれてるの」
「先輩が、何かあったら呼ぶように、言って下さいましたので……」
「──……」
「…………」
みおりは自分の言動を省みた。気まぐれな慈善活動を行う時は、条件を明確にしておいた方が賢明だ。
みおりがマンションから解放されると、少女が一人、駆けてきた。
栗色の長い髪に白亜の肌、さしずめ蝶が人間に化けた如くに華やかな風体は、殺風景な住宅街を瞬く間に明るめる。
「お疲れ、ほづみ。学校どうだった?」
「単位、ほぼ確定しました。みおりさんのお陰です」
「おめでと。感謝しろよ。あんなエロい本、わざわざ半分手伝ったんだから」
「そんなこと言ってぇ……みおりさん、官能小説詳しいじゃないですかぁ」
みおりの腕に、ほづみがぴとっとくっついてきた。
春先の気配がほのめいていた。如月半ばの風はかじかむように冷たいくせに、季節の終わりをそこはかとなくちらつかせる。
青白い霄漢の下を浮遊している北風の名残に撫でられる度、ほづみのこめかみを飾るリボンが揺れる。幻の白さが色づく街に、ともすれば同化せんばかりに白いほづみも、今日はひときわ軽らかだ。なすべきことを終えた人間に備わる特有のもの、浮かれた解放感が、ほづみにつきまとっていた。