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加虐の皇子と愛玩ドール
第8章 仮想忘憂

 ほづみに洋服を貸して、イメージプレイとやらを試みた。現実にイメージプレイを好むような人間からしてみれば、みおりが一週間前の遊戯をそうと断言すれば笑止に値しようが、ほづみにしては、よく化たものだ。
 ただし、みおりは翌日から課題の読書も手伝った。
 みおりが読んだのは『跪く王』、そして『鏡の国のハネムーン』だ。いにしえの西洋にあったマゾヒストの男がパートナーの女にことごとく隷従するロマンスは、読者を、ぞっとする情念で呑み込まんとしていた。いにしえのポルノ作家は、もはや書くことによって自らを癒したがっていたのではないか。受け身でありながら、どこまでも貪欲に愛を求める。それがみおりの受けた印象だった。
 もっともマゾヒストの心理に関しては、当人達の胸間でも覗かない限り、想定を超えた真理は突きつめられまい。

「明後日から春休みです。またお姉ちゃんのお店を手伝うことになったので、みおりさん来ていただけますか?」

 ほづみの口調は、天気の話でもしている時のように朗らかだ。
 お姉ちゃんのお店、ほづみがそう呼ぶレズビアンバーは、みおりの行きつけである一方で、姉妹が揃うと楽しからぬ思い出が先立って蘇る。みおりがほづみと出逢った場所、みおりがほづみを初めて抱いたその場所は、ほづみの一年先の未来の職場だ。

「毎晩でも行く」

「──……」

「じゃなかったら、雅音は私の許可もとらないで、ほづみに何させるか分からないし」

「…………」

 ほづみの頬が上気した。

 二人、表通りに差しかかったところで、地下鉄線に続く階段を降りてゆく。







──fin.
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