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加虐の皇子と愛玩ドール
第9章 快楽誘引
塙岸みおりの務めるアダルトグッズ製造販売メーカー本社は、ありふれたオフィス街の裏手につとめて自然に紛れていた。地上一階から屋上にかけてはそこいらの企業とおおむね変わらなく出来ており、地下二階まで続く地階は、商品開発部の管轄している施設が揃う。
みおりは定時までのカウントダウンが間近に迫った午後五時前、勤務して七年になるここ、人類の肉体的法悦をありとあらゆる方法でサポートする老舗メーカーの本社地下二階を訪っていた。商品開発部長、見浦はづるに呼びつけられたからだ。
回廊に並んだ地下室は、事務所を始め会議室、倉庫など、一見、凡庸な内訳だ。特異なのは、だだっ広いホールや用途不明の小部屋まで備えてあるところにある。
みおりが指定されたのは、浴室に通じている仮眠室だ。以前みおりが社外から呼び寄せた愛玩ドールとも、ここでシャワーを浴びた記憶は新しい。
ただし今日、粗末な寝台と天板はがら空きのパソコンデスク、スツールだけが備え置かれた殺風景な密室に先着していたのは、みおりの愛玩ドールもとい宍倉ほづみではない。一人ははづる、みおりを呼び出したお局だ。シニヨンにまとめた黒髪にさっぱりしたパンツスーツ、薄化粧のかんばせに美肌がとりわけ引き立つはづるは、三十代後半らしい、嬋娟たる美貌の持ち主である。
そしてもう一人、見かけない顔の女性がいた。年のほどは二十代前半といったところか。ほづみよりは年長だろう。女性は溌剌とした初々しさを醸しており、肩にすれすれ触れる長さの黒髪に薄紅色が基調の化粧が、その若さを引き立てていた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様、塙岸さん。紹介するわ」
みおりが仮眠室に至るなり、はづるが若手社員を押し出した。
はにかんだ目許を刹那拡張させた女性は、はづるに名前を明かされるや、みおりにしずしず会釈した。
「初めまして。……米原です」