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加虐の皇子と愛玩ドール
第9章 快楽誘引
「Cに命令するわ」
唯子の婉然たる口調を立てる唇が、静かに機能を再開した。
この場にいる全員が、息を飲む。正確には、カップルシートで一人ノートパソコンを打っている客は除く。雅音によると、初めての客である上に、仕事中であると見えた所以、ゲームに誘いづらかったらしい。
「サディストは加虐に目覚めたきっかけを。マゾヒストは、Mネコちゃんになったきっかけを。覚えていること全て、詳しく話して聞かせること。隠語は使用不可」
「っ……」
「…──!!」
みおりを始め、ほづみも雅音も玲乃も札を取り落としそうになった。
笙は平然としている。智花も命じられずともさっき話したばかりだ。
「…………」
一同、自分の札を確かめる。
「…………」
「…………」
ややあって、みおりの右隣から、観念した声が上がった。
鈴を転がすようなソプラノだ。やんごとなき雰囲気をまとったドールが、居心地悪そうに手を挙げていた。
「──…。私です」
唯子の目が、籤で当たりを引いた子供よろしくきららいた。
「あ……ほづみちゃん、……」
「うそっ。ほづみちゃんがC持ってたの?」
「修羅場ー。ま、この際だからご主人様に告白しちゃえっ。……って、塙岸さんは知ってるのかな?」
唯子と笙、玲乃、それから智花の嵩高な目がほづみを雁字搦めにする。
みおりは知らない。ほづみを愛玩ドールと呼ぶようになったのは、三ヶ月前のことだ。それ以前のほづみに関する情報は、一切持ち合わせていない。
大方予測がついたのは、ほづみが愛慾に関して淡白だろうということだ。至上の愉悦は快楽、相手を覊束したいとまで考えない──…代わりに不特定多数の女の前に股を開く。みおりはそんなほづみと相性が合った。
「私は、……」
ほづみの誘惑的な唇が、王様ゲームのリングに立ち込めた緊張感をやおらほぐした。
「高校生の頃、私は……オナニーにハマりました。憧れの先輩の隠し撮り写真や、好きなアーティストの音楽をオカズにして……身体を触って気持ち良いところを調べるのが、睡眠に優って、昼間の疲れが慰められる行為でした」
『Gemini』の淫靡なマスコット、もといみおりの愛玩ドールが、自らの性暦を物語り出す。…………