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加虐の皇子と愛玩ドール
第9章 快楽誘引
「子供が……っ、迷子の子供がいて、親御さんを探してあげていたんです……」
ほづみは口から出任せを、縋る目つきで美人の事務員に訴えた。
老人、子供、病人、怪我人──…。この学校が、常日頃、慈しめ尊めと口を酸っぱくしている類の人間だ。
事務員の可憐なアイカラーに囲われた目が、きょとんと開いた。
窓口には例の記入表が置いてある。ほづみ以外にも、今日このあとまだまだここに個人情報を記入させられる生徒がいることだろう。
「一分半ですよっ、一分半。私は子供を助けたために、内申書を汚されるんですか?!」
必死だ。
優雅に控えている事務員と、必死で自分を弁護している生徒。
ほづみはどこか離れた場所から、自分を含む両者を観察しては、滑稽な心地を覚えていた。
「分かりました。見なかったことにしますから、どうぞ、……」
事務員の小さな肩が、すっとほづみに近付いた。
「他の職員に見付かる前に、行って下さい。学校、今日も頑張って」
ほづみは気が抜けかけた。言い訳はあくまで言い訳だ。真っ赤な嘘が信用されたところで、かたちだけでも署名はするよう求められるとばかり思っていたのだ。
「有難うございます!っ……」
「待って」
窓口を離れかけたほづみの足が、涼やかなメゾに縫いとめられた。
ほづみが振り向くと、窓口に、可愛らしいメモが差し出されていた。
「その代わりと言っては何だけど、お願いを聞いてくれない?……でなければ、私が止めたのも聞かないで、貴女が逃げたことにします」
「え……」
にわかに朗らかさの消えたメゾの声が、ほづみの直感に冷たいものを走らせた。メモを改めて見る。
放課後、裏庭の物置小屋へ来るように。
メモにはそう書かれてあった。
裏庭の物置小屋の周辺は、草木の密生した無法地帯だ。用務員でも滅多に通りかからない。以前、美術の授業のスケッチのために裏庭の深奥まで立ち入った記憶を引っ張り出せば、あすこは薄気味悪いまでに静かだ。
もしや罰として草むしりか、或いは荒れ果てた物置小屋を掃除させられるのか。それでも遅刻が自宅に知らされるよりましだ。
ほづみはメモを拾い上げると、ホームルームへ急いでいった。