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加虐の皇子と愛玩ドール
第9章 快楽誘引
* * * * * * *
「…──それから大学部へ進むまで、巴山さんと主従の関係にありました。みほこ先輩が他県の大学へ行かれてからは、時々、巴山さんのお友達がお見えになりました。私は花織先輩を忘れていきました。今振り返ると、身近なアイドルを追いかけるのに近い感情だったんです。憧憬よりも、肉体的な快楽に……のめり込んでしまっていたのです」
ほづみの長い話が終わった。
淡白を気取ったドールの声は、時折、しどけないまでのしとりを含んでいた。豪奢に広がるスカートの下に生えた二本の脚は、密やかにすじりもじりしていたのではなかったか。
みおりは、一種異様な空気を肌に得ていた。
淫らな余波に取り込まれたのは、けだしほづみだけではない。たった数分前まで尊大に構えていた唯子でさえ、気丈な顔つきが却ってわざとらしかった。
ほづみ自身の様相が、彼女らを劣情に至らしめたのだ。ほづみは、ともすれば来し方の「ゆか」という名のサディストの幻にもてあそばれてでもいる顔をしていた。
「…………」
「あ、の……」
智花が遠慮がちに沈黙を断った。
「ほづみさんは、巴山さんを精神的にはどのように思われていたんですか?お伺いしていたところ、その……」
「──……」
ほづみが口を開きかけたその時だ。
「私が別れを提案したの」
第三者の声──…ちょうどほづみの話していたような、澄んだメゾが割り込んできた。
出どころは、王様ゲームの輪ではない。時折キーボードの音が聞こえていた、観葉植物の仕切りの向こうのカップルシートの方角だ。
「巴山さんっ……」
ほづみの顔が青ざめた。死者にでもまみえた面相だ。恍惚を憚る狼狽が、やんごとなきかんばせを染め上げていた。
みおりは死角から現れた第三者を改めて見る。
なるほど、ほづみの今しがたの物語から、そっくりそのまま抜け出てきた風采だ。栗色の髪がストレートになっているのは、三年という歳月の至りだろう。