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加虐の皇子と愛玩ドール
第9章 快楽誘引

 ゆかの颯爽とした足どりが、ほづみの傍らに止まった。
 厳格な名門校に勤務しているにしては華やかな感じの女性の手先が、かつてのドールの顔を掬い上げる。

「変わらないわね。ほづみ。……いいえ、美しくなった」

「──…」

「ほづみの担任を受け持っていた海馬しづか先生。少し前、彼女に面白い話を聞いたの。心当たりはあるわよね?」

 ほづみが頷く。
 みおりも記憶に新しい。

 昨年末、みおりは『Gemini』に押しかけてきた人物に、いきなり被虐を体験させろと要求された。そして翌朝、彼女がみおりの愛玩ドールに所縁ある人物だと明かされた。みおりはしづかにそそのかされて、悪質で、且つ淫猥な陥穽に、ほづみを差し出したのだ。

「嬉しいわ、ほづみ。私のことを話していた貴女の声は、熱心で、エロティックだった。聞いていて愉快だったわ」

「巴山さ──」

「そして私の見通しは当たった。ほづみは私がいなくなっても、貴女の気に入る人に出逢った。ほづみは若かったから、私しかご主人様を知らないで、私を慕っているなんて、断言すべきでなかったの」

 …──私の手元を離れて、良かったでしょう?

 ゆかのしとやかな指先が、口舌にまごつく唇の綻ぶ顔を放した。

「…………」

「智花さんと言ったかしら」

 たった今までほづみを懐かしげな視線に捕らえていたいたゆかの目が、新参者に正鵠を移した。

「聞いての通り、私は面倒臭いのが嫌い。寝室ではことごとく管理されたがる雌が可愛いけれど、だからって、昼間の愛慾の対象にまでされたくないの。貴女、遊び相手を探しているんですって?」

 智花の緊張した双眸が、たゆたった。
 じきに被虐に魅せられたスーツ姿の女性から、はい、と、小さなささめきがこぼれ出た。

「みおりさん、……」

 みおりの腕に、隣にいたドールの体温が押しつけられてきた。
 やはりフリルのミルフィーユに隠れて太ももをすり合わせているらしい、ドールの甘えたな双眸が、至極単純な衝動を訴えていた。
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