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加虐の皇子と愛玩ドール
第10章 淫楽引照

* * * * * * *

 卯月最後の金曜日の夜、郊外の路地裏に紛れたレズビアンバー『Gemini』に、例の如く馴染みの顔触れが出揃っていた。


「お嬢さん達それで良いの?」


 みおりとほづみの夕餉の席に、にわかに唯子の一喝した声がした。

 二人のソファの後方に、唯子と笙、それから何度か見かけた覚えのある少女らが、相席で向かい合っていた。


「他人の恋路にとやかく口出しする気はないわ。でもね、まこさん。瑞菜(みずな)さん。仮にもプロのネットライターの口から言わせてもらえば、セックスにオーガズムは不可欠よ。この件、アンケート調査したら80%はイエスになるから」

「刺激も必要なんでしょ。唯子の場合」

 ラフなカジュアルに身を固め、何やら力説する女の隣で、笙が優雅に苦笑した。唯子の学生時分からの友人は、その気性も既知らしい。


「でも……」

「私は……」


 まこと呼ばれたツインテールの少女が、睦ましやかな恋人の腕にまといつく。まごつく桜色の唇は、押しとどめた口舌を引き出してやらずとも、何を主張したがったか明白だ。
 今時の風采をした彼女らは、論をまたずして初々しく、事実、大学生くらいと見られるカップルだ。顔見知りと言えど、普段は面識もなかろう二人のどこに、唯子の気に入らないところがあったのか。


「私達は今のままが良いんです。もちろん性欲はあります。だから『Gemini』のイベントナイトはハマりましたし、唯子さん達のお話は、お聞きしていてためになります。でも、……ねぇ?」

「今のところ、一緒にいられるだけで満足なんです。見るのだって未だに緊張しちゃうのに、……」


「もう焦ったいっ。そこの二人をご覧なさいよっ、イベント来てるなら分かるでしょ?突きまくってイキまくってるでしょっ?」


 かちゃん…………


 ほづみの指からフォークが滑った。

 瞭然たる狼狽が、さしずめ陶磁の頬をきららかせる大きな瞳を跼蹐させる。


 ほづみがのんびり食事をとれなくなったのも、無理はない。

 閨事の極みはオーガズムか。また、膣内(なか)への愛撫は必要か。


 至極単純な論議のために、ただ顔見知りであるだけの二人が参考資料に挙げられたのだ。
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