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加虐の皇子と愛玩ドール
第10章 淫楽引照
* * * * * * *
明け方近くまで淫らな二次会に耽った。それから少し仮眠をとると、一端、ほづみは雅音と暮らすマンションの部屋へ帰っていった。
みおりは雑用を片付けて、昼下がりからキッチンに立った。
窓の隙間から卯月特有の風が吹き込み、時折、遮光カーテンを透かしたレースを揺らす。
携帯電話でいわゆるデコ弁のレシピを検索し、せっせと作業を進めていった。
シャワーを浴びて、おそらく観桜には相応からぬ洋服に袖を通す。
立て襟に華やぐシャボにふんだんの綿レースがあしらってあるチャコールグレーのブラウスに、小花とリボン刺繍が胸ポケットを飾るジャガードのベスト、そして幅狭のケミカルレースのたたいてある裾に編み上げが施されたロングパンツ──…くすんだ金色の短髪は軽く整え、友人曰く口を開かなければ女好きするという顔を化粧した頃、花見弁当も湯気をなくしていた。
『Gemini』のある界隈より二駅西に、神社に隣接した公園がある。
桜前線が到達した今、故郷の木々は華やかなフリルを着込んでおり、園内は賑わっている。午後四時半、ライトアップを待つ客達の敷いたレジャーシートが足場の大半を覆っていた。
「みおりさんっ」
中央広場を少し外れた細道を登り、植込みの向こうの小さな平地に、果たして、今朝別れたばかりのドールがちょこんとスカートを広げてかしこまっていた。ピンク色のレジャーシートが、青に見飽きたみおりの目を慰めた。
「お疲れ。場所取りありがと」
「いえいえ。空いてて良かったです」
ほづみが大輪の花の如くスカートをよけた。
みおりは紙袋を下ろし、ほづみの隣に上がりこむ。
「ここまで登ると客いないんだな」
「そうなんです。眺め良いのに、知らない人多いんじゃないでしょうか」
花に負けじと存在感を醸すドールから、みおりは辺りに視線を巡らす。
灌木が囲繞している畳六畳ほどの平地は桜花が四方に生い、一角に枝垂桜が密生している。まもなく夜のとばりを迎えようとする群青の空を凄艶な薄紅のレースが覆い、まるで三色の籠にとりこめられた錯覚さえ起こす。おりふしぬくみを含んだそよ風が通り過ぎては、ひとひら、小さな薄紅が群青を舞った。