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加虐の皇子と愛玩ドール
第10章 淫楽引照


「それ本当?えっ、今更?」

「うん」

「うん、じゃないわ。大学の時から付き合ってたんでしょ。塙岸さんにまで迷惑かけて……喧嘩もやっと落着したのに」

「──……。うん、……」

 みおりは人々の隙間を見澄まし、声の主の姿を求める。

 思った通り、花叶と彼女の友人が話し込んでいた。


「──…。ここだけの話ね」

「うん」

「あのね、……」


 花叶が何やらもったいつかせ、友人の方はじれったげに彼女を見つめて数秒が流れる。


「やっぱり、……ごめん」


「ここまで引っ張って?」

「引っ張ってないもん」

「気になるじゃない。何で別れたの?それだけ聞きたい」

「…………」


 みおりは二人から目を逸らし、暫しの休息を決め込んだ。

 畢竟するに話の内容は、花叶が恋人と別れた。それだけだ。

 別れようと別れまいとどうでも良い。

 花叶が例の男ともつれる度に慈善行為を余儀なくさた。それがなくなれば後のことは関係なかった。


「分かった、もう、言う。言ったらこの話はこれでおしまい。言ったら終わりね」

「オッケー。どうせ別に好きな人が出来たとか、でしょ」


 友人が花叶を囃し立てた。耳を澄まさなくても聞こえる声は、やはり低血圧とは無縁らしい。


「正解……」

「ほら」

「あの、私ね、それで、……」



 …──彼のことを相談していた人のことを、好きになってしまったの。



「…………。ってことは、……」

「うん、……ダメだって分かってる。塙岸さんにはペットがいらっしゃるし、私なんか、……」

「──……」



 そこまで小心な態度を決め込むのであれば、最低でも本人の不在を確かめてから口にしろ。


 みおりは無理難題な批判を胸裏にぼやいた。

 花叶のプライベートとは関係なくなったばかりか、前にも増してややこしいことになったのではないか。



 まもなく、電車が見知ったホームに至った。







第10章 淫楽引照─完─
 
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