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加虐の皇子と愛玩ドール
第11章 一対勾引



「私の身体は、みおりさんのものです」


 耳を澄ましてようやく聞き取れるほどのささめきが、レールを走る電車の音に紛れた。


「気持ちは?」

「……私の、ものです」

「──……」


 肩がほづみの重みをなくした。

 みおりが黒目を動かすと、すましたドールがしゃんと背筋を伸ばしていた。


 だから惹きつけられずにおけないのだ。

 たぐいない被虐体質を備えていながら、正直で、真に服従させることは容易ではない。



 電車が停まった。若い男女が降りてゆく。


「あ、……」

「またな」

「はい、また」


 みおりはやや空いた車内からほづみを見送り、彼女の温度の残った隅に席を詰めた。



 ここにいると思い出す。あれからもうじき一週間だ。



「塙岸先輩っ」


 電車が動き出してからややあって、聞き親しんだ声がみおりを呼んだ。


「花叶ちゃん?」


 きらびやかな女性が一人、みおりの斜め上の吊革を握っていた。


「おはようございます。さっきから気付いてたんですけど、混んでて」

「おはよ。そうだね」

「この電車だったんですね。あ、家の方向からしてそっか」

「今まで会わなかったのが不思議だな」

「ですねー」


 …──先週、見かけたのを除いては。


 喉元まで出かけた言葉をのみ込んだ。



 みおりは花叶と他愛のない話をした。


 今年に入ってからも営業の成績が芳しくないだの、恋人と別れただの、花叶の話は既にみおりの知るところが多くを占めた。だが、屈託ない笑顔は眺めていて損はない。



「それじゃ、先輩。また」

「うん、頑張って」


 会社のエントランスで花叶と別れて、ふと、またいつかの朝がデジャブした。

 一週間前とは違う、もう少し前の朝のことだ。


「…………」




 花叶が恋人に縛られて、そこを救出に行った翌朝。


 あの朝も、こんな風にここで彼女を見送った。
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