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加虐の皇子と愛玩ドール
第11章 一対勾引
* * * * * * *
「花叶さんと……仲、良いですよね」
ほづみのワンピースのリボンがほどけていたのが目にとまり、みおりが直してやっていると、鈴を鳴らすようなソプラノが、天気の話でもしている声音で囁いた。
からりとした陽光が、閉めきったカーテンの隙間を縫って、朝の風景を必要以上に明るめていた。
テーブルにはパン粉の残った皿が二枚と、空になった二つのカップ。
今し方まで歓談の花が咲いていたそこは、朝食の残り香がそこはかとなく漂っていた。
「仲は悪くないよ」
「ですよね」
「はい」
完成、と、みおりはほづみの尾てい骨に広がるシフォンの巨大な蝶を放した。
長い茶髪が指先を撫で、ほづみがきびすを返すのにつられ、奢侈に膨らんだフリルが靡く。
「有難うございます」
昨夜、あれだけ火照った夜を過ごしていたのが嘘のようだ。
またしても学校行事のために休日駆り出されたほづみの顔は、まるで隙のない高貴なドール同然に化粧されており、白い肢体は春にしては厚着であるほど可憐に防備されている。
「みおりさん」
「ん?」
「みおりさんって、食わず嫌いでしょ」
「何の話?」
「んー……私も、食わず嫌いみたいなものですから」
…──気に入った女性を縛ったことないんです。
今更のような既知の事実を、ほづみがおどけ混じりに言った。
報復だ。みおりがさんざんゆかをダシにしたからだ。
「遅刻するよ」
「あっ、うそ!」
みおりが携帯電話を見せると、ほづみがバッグを担ぎ上げた。
玄関先までドールに付き添う。
抱き締めて、キスをして、ともすればひとときの別れも惜しむ盲目な恋人同士を気取ったように、みおりはほづみが遠ざかるまでその姿を見送った。