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加虐の皇子と愛玩ドール
第11章 一対勾引
馴染みの電車に揺られていると、土曜日らしい浮かれた車両に見知った女の姿を見かけた。
「ほづみさん」
専門演習でも使っていた単行本をめくり、女に声をかけることはしなかった。そうしてめくるめく官能のドラマに目を通していたほづみの意識が、にわかに朝の地下鉄線に呼び戻された。
「おはようございます。偶然ですね」
「はい、……」
懇ろな友人にでも鉢合わせたようだ。花叶の懐っこい笑い声が、ほづみの真横に落ち着いた。
奢侈なロリィタと姫スタイルの女を並べて、地下鉄電車が進んでいく。
ほづみが先日の話題を出すことも、花叶がそれを口にすることもなかった。
花叶はほづみの容姿を褒め、洋服を褒め、自身も可愛らしいものが好きなのだと、聞くまでもなく分かるような自己紹介をしてくれた。
「本当に、塙岸先輩にはご迷惑をかけてばかりで。先輩だけです。私に、営業部向いてないんじゃないかって仰らないの」
「会社、厳しいんですね」
「どこでもそうですよー。そっか、ほづみさんはお姉さんのお店を手伝うんですよね。あはっ、そちらも厳しいって聞いていますよ」
「……まぁ、姉は法とか気にしない怖いもの知らずなので……」
ほづみの姉、雅音は、イベントだの集客だのとかこつけては、自身の経営するレズビアンバーで妹を丸裸にし、客達とその痴態を眺めて楽しんでいる。そういう時、ほづみを喘がせるのは大抵みおりだ。
今でこそほづみもみおりも雅音の営利目的に補翼することを避けているが、もとより二人が出逢ったのこそ、彼女の企画した脱法的なイベントだった。
「いやじゃないんですか?」
「お姉ちゃんに、今更何を言っても無駄なので」
「そうじゃありません。塙岸先輩と、……その、先輩が他の女性に触れたり、とか、……」
「──……」
首を横に振ってしまえば嘘になる。いやだと答えるのも違う。
同じ大学の学生が乗り込んできた。少女が二人と、少年が三人。
五人ともほづみに気づいていない。そういうものだ。ほづみは吹奏楽部のステージを観て彼らを認識しているが、彼らにしてみれば、ほづみは学科も別のところにいる赤の他人だ。