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加虐の皇子と愛玩ドール
第11章 一対勾引


「花叶さんは、何故、恋人とお別れになったんですか」

「……何でだろ」

「みおりさんのこと、好き、ですか?」


 反則だ。ほづみは慚愧に責められながらも、口をついた疑問を取り消さなかった。

 花叶の答え、それこそ、ほづみの胸に漠然と広がるどうしようもない激情ではないか。


「先輩を好きにならない人は、根っからのサディストだけだと思います」

「…………」

「女性と分かっていたのに、……私は男の人しか愛せない、そう思っていたのに、先輩は別でした。先輩をお慕いしないで、彼を好きだと言い続けていける自信がなくなりました。けど、彼にいだいていたのとは違う。今の塙岸先輩が好きなんです。付き合いたいか、それは多分、違います。…………」

「──……」


 愛だの恋だのは不要な感情。数多ある法律の八十パーセントが余分であるのと同じで、恋愛と定義づけられる関係も、ほんのひと握りだけが必要で、残りの八十パーセントは人間がただただ互いに可能性を狩り合うだけの削ぐべきものだ。

 そう、みおりはいつか話していた。

 ほづみも特定の恋人を望んだことはなかった。


 理性にくるんだ言葉と言葉の関係は、心地悪い。


 みおりとは求めているものが似ていた。仮に情が移ってしまったとする。契約違反だ。


 それでも、恋人の気分になる。

 旅行をしたり、花見をしたり、同じ朝を迎えたりする度、ふとした瞬間、劣情とは違う疼きが胸に迫る。


 ただ、この感情を説明するなら、おそらくは──…。



「みおりさんは私だけを所有し、私はみおりさん以外の人に触れられるより先のことは許さない。……私達のルールは、それだけです」


 一応は公共の面前だ。ほづみは上品な顔を気取った乗客らの耳を考慮して、声を潜めた。


 快楽ほど、ほづみとみおりの道徳を保証するものはない。快楽のためにゆかを懐かしもうが花叶を巻き込もうが、誰が何を咎める必要もなかった。



 電車が親しみ深い駅に停まった。同年代の学生達がが下車してゆく。

 ほづみも倣って腰を上げた。







第11章 一対勾引─完─
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