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加虐の皇子と愛玩ドール
第12章 錯綜同衾
「淋しいのがこっちなら、またやったげる」
「え、あの、……」
「なんて」
みおりは花叶の尾てい骨を撫で回していた片腕を引いた。
密着した二人の胴は、前方からではその内側で何が行われていたかは見極められまい。
ほづみの学校の最寄駅で、大方の学生が降りていった。
空いた車内に、またしても見知った人物の姿があった。
「あ……」
「どうかしましたか?」
車両の隅、手すりに片腕を預けていたのは、みおりの愛玩ドールの被虐性を見込み、かつて研磨したという高校事務員だ。花叶も知る商品開発部の若手社員が、彼女に半身を委ねている。
「あ、米原さん」
智花は、同じ会社の人間二人の目があろうとは夢にも思っていない様子で、すじりもじり身をよじっていた。
「ゆか様本当に大好きです。あと少しでお別れなんて、淋しいです」
「私も同じよ。明後日また会いましょう」
「今夜もお電話してくれますか?」
「貴女のあれを聴かせてくれるなら……」
「ぁ、ん……」
ところで、と、智花が語調を切り替えた。彼女らしからぬ非難的な目が、ゆかをねめる。
「ゆか様、ほづみさんのこと今でも好きでしょ」
「何故?」
「今朝だって……」
智花のいたずらな双腕が、ゆかのスーツに絡みつく。
「──……」
無邪気な智花の唇が、ゆかに悋気を訴えた。
残忍な性質を備えていながらどこまでも可憐な高校事務員から、花のような笑い声が散る。
「そういうこと……」
智花の苦情は、みおりの知らざることだった。
ほづみとは、今朝から連絡をとっていない。今しがたのゆか達の話が事実だとしても、みおりがほづみ本人から報告を受ける機会はなかった。
「あ、先輩……」
ほづみが朝、運動がてら散歩に出かけることがあるのは知っている。運動というのは名目で、下着をつけないで歩いているという快感を一人噛みしめるためだということも。
みおりがゆか達に進み寄ると、花叶があとを追ってきた。
「おはよ」
「塙岸先輩っ」
「あ……」
「今の話、詳しく聞かせて?」
恋人同士も顔負けの、閨事のパートナー同士の顔面に、睦まじやかなひとときから一転、苦い色が貼りついた。