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加虐の皇子と愛玩ドール
第12章 錯綜同衾

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 しめやかな陽気を運ぶ電車に揺られて二時間弱の旅路を経る頃、窓は別世界を映し出していた。


 閉塞したシートを離れ、久しい外気を胸に取り込む。

 ゴールデンウィーク初日のホームは、思いの外、穏やかだ。

 みおりはほづみと旅行客の波に混じり、改札へ向かった。



「空気が綺麗ですね」

「地元より田舎だしね」

「それに、さすが高原。涼しいです」


 右手に山を、左手に民家のまばらに並んだ車道を見ながら、スーツケースを転がしてゆく。

 時折、緩やかな風がたゆたった。一面に広がる空は白んだパステルブルーをしており、遠目に見える田畑に切り替わる境目は、なだらかな線を描いていた。

 避暑地として定評のあるここは、高地に位置する。皐月始めに訪うには、やや肌寒いほどだった。



「そう言えば、どうしていきなり宿泊先、変わったんですか?」

「手違い。ごめんな、予約通ってなかったみたいで」

「ふぅん。そんなこともあるんですね」



 ほづみと今回の計画を立てたのは、およそ二週間前のことだ。

 掘り下げれば、国内旅行の話自体は、春休みシーズンが明けるより前から出ていた。


 一ヶ月と少し前、みおりはほづみと関東の方へ旅行した。ほづみの姉でみおりの行きつけのバーの店主である雅音が引き当てたくじ引きの旅行券を、彼女に押しつけられたからだ。

 雅音は、のべつ非合法な商法に走る。雅音自身の手を汚すのではなく、ほづみやみおりを主体とした違法行為だ。あの旅をみおり達が強要されたのも、雅音が警察の立ち入り調査から二人を遠退けるためだったのだ。
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