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加虐の皇子と愛玩ドール
第12章 錯綜同衾
* * * * * * *
しめやかな陽気を運ぶ電車に揺られて二時間弱の旅路を経る頃、窓は別世界を映し出していた。
閉塞したシートを離れ、久しい外気を胸に取り込む。
ゴールデンウィーク初日のホームは、思いの外、穏やかだ。
みおりはほづみと旅行客の波に混じり、改札へ向かった。
「空気が綺麗ですね」
「地元より田舎だしね」
「それに、さすが高原。涼しいです」
右手に山を、左手に民家のまばらに並んだ車道を見ながら、スーツケースを転がしてゆく。
時折、緩やかな風がたゆたった。一面に広がる空は白んだパステルブルーをしており、遠目に見える田畑に切り替わる境目は、なだらかな線を描いていた。
避暑地として定評のあるここは、高地に位置する。皐月始めに訪うには、やや肌寒いほどだった。
「そう言えば、どうしていきなり宿泊先、変わったんですか?」
「手違い。ごめんな、予約通ってなかったみたいで」
「ふぅん。そんなこともあるんですね」
ほづみと今回の計画を立てたのは、およそ二週間前のことだ。
掘り下げれば、国内旅行の話自体は、春休みシーズンが明けるより前から出ていた。
一ヶ月と少し前、みおりはほづみと関東の方へ旅行した。ほづみの姉でみおりの行きつけのバーの店主である雅音が引き当てたくじ引きの旅行券を、彼女に押しつけられたからだ。
雅音は、のべつ非合法な商法に走る。雅音自身の手を汚すのではなく、ほづみやみおりを主体とした違法行為だ。あの旅をみおり達が強要されたのも、雅音が警察の立ち入り調査から二人を遠退けるためだったのだ。