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加虐の皇子と愛玩ドール
第12章 錯綜同衾

* * * * * * *

 深閑たる朝の冷気の染みた回廊を抜けて、みおりは大浴場を訪った。

 脱衣所の靴箱は、一つ鍵がかかっていた。

 みおりはそれより少し離れた一区に外履を仕舞うと、適当にまとってきた洋服の代わりにバスタオルを身体に巻いて、どこぞの誰かが貸切を満悦していよう浴場へ入っていった。



 流し湯を済ませ、みおりは昨夜ほづみとじゃれ合った露天風呂に出た。

 ゆで卵と潮の匂いだ。

 爽やかな気体とあえかな湿気のまぐわう空下に、果たして、その人物はいた。


「初めまして」

「あ、……」

 しめやかな波から肩を出していた少女の薄い唇が、たゆたった。

 高くもなく低くもない、少し掠れた甘酸っぱげな声だ。

 みおりは、声の主こそ数日前、電話越しに知り合った少女と確信した。


「みほちゃん」

「はい。みおりさんですか?」

 小池みほこは淡白な表情を貼りつけたまま、場所を空けた。

 みおりはみほこに肯く代わりに、ほんのり血行を良くした腕に割かれてなだらかな波を残した水面に浸かった。

「成功ですか?」

「もちろん、あのほづみだよ」

「はは、相変わらずだなぁ」



 みおりがみほこと連絡をとるのに至ったのは、先日、花叶と通勤電車に揺られていた朝の一件に遡る。

 ゆかと智花が話題にしていた淫らな会合。居合わせていたのは四人の女達、内三人は、論をまたずゆか達だ。そしてゆかに質したところ、四人目は、聞き馴染みのない名前の主だった。

 否、みおりは、みほこをまるきり知らなかったわけではない。
 雅音と、彼女の悪ノリに便乗したバーの客の提案に巻かれて混じった王様ゲームの罰ゲームに当たったほづみが、彼女自身の体験談を披露していた中に出ていたからだ。


 朝の散歩中、ほづみはゆかと智花の性的現場に居合わせたという。逃げ出そうとしたほづみをゆかが引き止めた。自宅に招き、ほづみの淫行を咎めるクイーンを気取ったゆかは、偶然泊まりに訪っていたみほこを彼女に再会させた。…………

 みおりは、そこで今回の禁足を閃いて、主だってみほこにほづみの折檻の協力を求めたのである。
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