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加虐の皇子と愛玩ドール
第2章 暴虐願望

 みおりはストロベリーサワーカクテルを一口飲んで、ほづみの声に耳を傾ける。

「シャステルは孤独な作家でした。貧しい家庭に生まれ育って、同年代の友達と遊んだり、恋をしたりする暇もなく、二十代の頃まで働きづめだったようです。けれどある時、シャンテルがホテルの従業員として勤めていた頃、深夜の客室から不思議な声がこぼれてくるのを聞きました。そして、音」

「女が女を鞭打って、喘がせてたって?」

「ほぼ正解です。そのお客さん達は、毎月、ホテルに泊まりにくるようになりました。シャンテルは、いつしか、その二人の令嬢達の寝室に、自ら居合わせる空想を重ねるようになります。消灯時間の過ぎた廊下で、一人、情事の音声を聞きながら、自慰をします。それが、彼女が性に目覚めたきっかけでした」

「なるほど。それで、あいつの書く小説は、自慰の話が多いんだ」

「読んだことあったんですね」

「上司に勧められて。『血枷』もラストだけ知ってる。恋人に殺してくれって頼まれて、尚且つ、いまわの際に自慰を見せろって要求される話だろ。あとがきに、作者の願望だって説明されてた」

「はい、あの話は……だって……あっ……」

 みおりは、ほづみの腰かけている真ん前に乗り出した。
 そしてほづみの太ももの側に片膝をかけて、ソファの背もたれに片手をつく。

 みおりがほづみの顎に指先をかけて、くいっと上を向かせると、たゆたう大きな目が間近になった。

「私は『血枷』より『暴虐』派」

「あっ、私もです。あれはときめき──…ん、んん……」

 みおりは、ほづみの唇に自分のそれを押し当てた。

 喧騒としたホームで交わしたよりずっと深くて、ずっと野性的なキスを求める。

「んっ、……」

 ほづみの片手をぎゅっと掴んで、簡単に開く唇の向こうの歯列をなぞる。顎に添えていた指先を首筋、鎖骨へ滑らせていって、熱い舌先をひと撫ですると、唇と唇の間にほんの少しの隙間を開けた。

「ほづみのときめきは、私の願望」

「え……」

「『暴虐』の通りにしてやるよ。ほづみは、あの主人公みたく、ご主人様に滅茶苦茶にされたいんだろう?」

「あっ……はぁっ……」

 薄いバスタオルからはみ出た乳房を揉み出すと、気を遠くしたような悲鳴がこぼれた。
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