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加虐の皇子と愛玩ドール
第5章 公認遊戯
新春の浮かれたムードもすこぶる薄らいできた睦月の暮れ、街はともすれば氷漬けにされたのではないかと感じられるほど、甚だしい寒気に覆われていた。メインストリートでは、所狭しと並んだ店屋の随所に、気の早いバレンタインデーの販促グッズが登場している。一方で、未だ買い手にまみえられない福袋の残ったワゴンのテントが、時折り吹き抜けてゆく北風に揺られていた。
塙岸みおりは、そんなとりわけ賑やかな繁華街の一角、いかにも都会的な格調を主張した感じのある、洒落たホテルの一室にいた。
オートロックの扉を開くと、まず玄関はロカイユ調の靴箱にゴブラン織のカーペット、それから更に奥へ進むと、やはり大袈裟な家具やら調度品やらでまとめてあるキッチンに、リビング、小部屋があって、バスルームと思しき小さな扉も、重厚なディテールが施されていた。そうして二、三の扉を通り抜けていって、もはや馴れ親しんだ街の空気を失念する頃、ようやっと最奥の部屋に辿り着く。
レースのバルーンカーテンに、レースの格子模様と百合十字の浮かんだジャガードの遮光カーテンの垂らしてあるガラス張りの窓は、蛍光シーグラスの散らばる海淵を聯想する夜景が広がっている。クリアな漆黒、小さなネオンが、泡沫のイリュージョンを織り成していた。
みおりの隣で、女性が一人、ケーキを頬張っていた。
来桜花会(くれざくらはなえ)、みおりの勤務している会社と目と鼻の先の距離にある、コンビニエンスストアのスタッフだ。
ただしみおりにしてみれば、今日ほどくだらないことはなかった。
花会の定時に行きつけの店まで迎えに行って、捕まえたタクシーに行き先を告げた途端、通勤スタイルを恥じた彼女を、通りかかりの店に連れ込んだ。タクシーは待たせておいた所以、時間は大して押さなかったが、花会に華やかな洋服を見立ててやって、プレゼントすると言ったやにわ、この律儀な堅物は、またたゆたった。みおりは花会の肩をやんわり抱いて、綺麗な君を見続けたいから、と、耳許に囁きかけてやった。そして、ようやっと店を出られた始末だ。
どこのくさい米国紳士だ。
みおりは、定時から今日これまでを改めて振り返ると、いっそくだらないどころでは済まされない自分自身の行動に、寒気を覚えた。