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加虐の皇子と愛玩ドール
第5章 公認遊戯
「塙岸さん」
花会の、ほんの少し掠れたメゾともソプラノのもつかない上品なトーンの声が、ふんわり聞こえた。
「今日は有り難うございます。こんなにお洒落なスイートも、こんなに幻想的な夜景も、初めてです。……お洋服は、お返しします。本当に」
「良いよ。返されても使い道ないし」
「…………」
「話しただろう?君のお父さんとは同じ部署で、世話になってる。花会さんは可愛いし、お礼するなら君が良かっただけ」
「ぁっ、……」
みおりは花会の緩く巻かれた黒髪が自分の肩にまとわりついてきたのにも構わないで、淡い艶の流れるベルベットにくるまれたウエストを抱き寄せた。ちらと視線を隣に遣ると、まるで未知の世界に迷い込んできた仔ウサギよろしく、おどおどした瞳が視線のやり場を失っていた。
官能的なオードトワレの匂いがする。花会の紅色の頬が、ひとしお濃厚になっていた。
「君に頼みがあるんだ」
みおりは、とろんとした視線を感じていた。
この喧騒とした街から隔離された密室に連れ込むために、馬鹿げた茶番を演じてまで得た信頼、それは確固たるものらしい。花会の視線は、安心しきった温度があった。
「お洋服を、脱いで」
「え……?」
「下着も。全部。丸裸の君が見たいんだ」
「っ、……」
花会から、にわかに強ばった気配がたなびいてきた。
「部屋の鍵はかかってる。ほぼ初対面の人間についてきて、こうなることくらい予想……いや、期待していたんじゃなかったの?」
「どうして、ですか……」
「手間どるのは好きじゃない」
みおりはソファを立ち上がるなり、花会の腕を掴み上げた。
手のひらが頬を打つ音が、弱々しい抗議の声を打ち消した。
「うっ、……ゃっ、離して……!!」
みおりは花会の柔らかな腕を引っ張って、優雅な天蓋付きのシングルベッドへ引きずっていく。
花会の身体を、ふかふかの羽布団に突き倒す。
「いや、……」
花会がすかさず上体を起こす。
みおりは花会の下半身を膝で押さえて、その両手首をシーツの海に押さえつける。
「脱げないなら、脱がせてやるよ」
「いやです……っ、私が何したって……あぁうっ」
みおりの手のひらが花会の頬に、二度目の叱責を見舞った。チークと血色で赤くなっていた皮膚に、毛細血管の破損を伴う赤みが加わり出した。