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加虐の皇子と愛玩ドール
第5章 公認遊戯

* * * * * * *

 みおりが一人ホテルを出ると、街はすっかり消灯していた。
 コンビニエンスストアを始め、飲み屋にバー、それからいかにもいかがわしい試写室を除いては、どの店もシャッターは下りた後だ。広々した車道を、時たま、タクシーと自家用車が流れてゆく。

 花会は部屋に残してきた。チェックアウトは翌朝だし、どのみちあの過保護な父親の元に、こんな時間に送り返しては、とばっちりが飛んできかねない。

 みおりは、本数こそ少なくなってもがら空きの、いとも落ち着く地下鉄で、隣の地区へ移動した。そして訪ねるのは三度目になる、昔ながらの住宅街に入っていった。

 ひっそりとした家並みを両脇に歩いていくと、じきに公園と隣接したマンションが見えてきた。とりたててあか抜けた佇まいではなきにせよ、近代的な雰囲気が備わっている。
 みおりはこの豆腐型の共同住居に入っていった。それから一階奥から三番目、「宍倉」という表札のかかった部屋のチャイムを押す。

『はい』

 インターホンから、鈴を転がしたように甘く涼しげなソプラノが聞こえてきた。みおりの友人、宍倉雅音の声ではない。

「私」

『あっ』

 インターホンの向こうから、高揚した吐息の気配が伝わってきた。続いて慌ただしい物音が立って、通信がタイムアウトになってじきに、扉が開いた。

 みおりを出迎えてくれたのは、宍倉ほづみ、この部屋のもう一人の住人だ。

 小さな顔に大きな目、ほづみの長い栗色の髪は腰まであって、その身体はいつも豪奢なロリィタ服でめかし込んである。その姿はさしずめ生きたドールだ。
 ただし、今夜に限っては、ほづみの二十一という年端にしては挑発的なラインを描いた白い肢体は、バスタオル一枚にくるまれているだけだ。極上の砂糖菓子を春色の染料で色づけたかのようにきめこまやかな柔肌が、惜しみなくむき出しになっていて、衣類とも区分出来ない布切れの裾からにゅっと伸びた太ももは、今にも上方の裂目までちらつきそうに危なっかしい。

「こんばんは。みおりさん。……お帰りなさい」

「え?」

「あ、えへへ」

 ほづみの端然たるかんばせに、はにかんだ感じの笑みが浮かんだ。

「お姉ちゃん以外の人に、お帰りなさいって、言ってみたかったんです。実家にいた頃、母や父には、飽きるほど言っていましたけれど、そうじゃなくて……」
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