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加虐の皇子と愛玩ドール
第5章 公認遊戯
「みおりさんと、誤解されちゃいました」
「やっぱり、さっきのそうだったんだ」
「ちゃんと訂正しておきます。恋人じゃないって」
「……セフレだって?」
「どうしましょ。ご主人様って、言ってみます」
「マゾヒストはカムしてないって言ってたじゃん」
ほづみが悪戯っぽくくすくす笑った。
「そうだ、みおりさん。お夕飯、買い出し付いてきていただけますか?冷蔵庫に何もないんです」
「了解」
みおりはほづみと、例のマンションを一端通り過ぎていって、その先にあるスーパーに立ち寄った。
夕餉前のスーパーは、ショッピングモールにはないノスタルジックな感じがある。子供が菓子を選んでいるのを退屈そうに待っている父親や、どれだけ大家族がいるのだと突っ込みたくなるほど買い物かごをいっぱいにした老女、あらゆる種類の人間の姿があった。
みおりはほづみに和食をリクエストした。ここ数日、とにかく外食が続いていた。今朝は久々に手製のモーニングにありつけたが、まだ家庭の味に飢えている。
皇子とロリィタが、野菜売り場でネギや大根を物色している。
その情景は珍しいのか。子供の視線が煩かったが、躾の良い保護者が付いてくれていて助かった。
二人、新鮮な野菜をカゴに入れると、今度は海鮮売り場へ向かった。
みおりは、つと、覚えのある人物の姿を見かけた。
きりっとしたつぶらな目許にシャープな輪郭、焦げ茶の巻き毛はアップに結ってあって、その華やかさはこの所帯染みた場所でいかにしても浮いていた。フェイクファーのティペットが襟元を飾ったサーモンピンクのコートは、会社のロッカー室でも屡々見かける。
桐原花叶(きりはらはかな)、みおりがとりわけ懇意にしている、営業部の後輩だ。
「っ……」
「ぁっ」
みおりは花叶に近付いたやにわ、自分の目を疑った。
どれだけ営業実績が思わしくなくても、仕事でちょっとしたミスをして上司に怒られても、明るく謝って次の日には忘れている。そんな生来の天真爛漫な花叶の鼻先が、赤く染まって、その目が泉になっていたのだ。タオルハンカチを頬にあてがっているが、耐えに耐えた涙がとうとうこぼれたのは明白だ。