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加虐の皇子と愛玩ドール
第5章 公認遊戯
「お、つかれ様です、先輩……」
花叶がくるりと踵を返して駆け出した。
みおりは、サーモンピンクのコートの裾を捕まえる。
「待てよ、花叶ちゃん。顔を見るなりそれはないだろ」
「っ……、……」
「みおりさん?この方……」
「会社の子。営業部の、桐原花叶」
「ああ!」
花叶がおずおず振り向いてきた。ほづみがぺこっと頭を下げると、鼻を啜りながらそれに倣った。
「このロリィタちゃんが、宍倉さんですか?」
「そう。花叶ちゃんは?こんなとこで、……たまねぎ?」
「──……」
もっとも、花叶の腕にかかっている買い物カゴに、涙をいざなう類いのものは入っていない。
「みおりさん」
みおりが鈴を転がしたみたいなソプラノに振り向くと、ほづみの遠慮がちな目に見上げられていた。
「お買い物、あとは一人で出来ます。お夕飯、私、作るの時間かかりますから……みおりさん、暫く一緒にいて差し上げてはいかがでしょうか?」
「けど、ほづみ」
「チャイムを押して下されば、すぐに開けます。私、お料理は、見られてると気が散るんです。お願いします、みおりさん。美味しいお夕飯を作りたいので、時間差で帰ってきて下さい」
「…………」
「ごめんなさい、あたし……」
「失礼します」
みおりの腕からほづみのそれへ、買い物カゴが移っていった。
ドールのふわふわ立ち去ってゆく後ろ姿を見送って、隣を見ると、花叶の少しだけ涙の落ち着いた横顔があった。
「ごめんなさい、塙岸さん。折角、ペットのお散歩中でしたのに」
「花叶ちゃん……っ」
みおりは周囲を見回す。
案の定、花叶の涙声ながら完璧に呂律の回った発言が、母親と見られる女性らに、我が子の耳を塞がせていた。
「…………」
みおりは花叶の乾きかけの頬に片手を伸ばす。崩れたチークを自然な程度に直してやった。