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王女様の不埒な暴走
第4章 執事の噂と王女様の暴走
「ラインハルトの出版社がカンターヌに進出しているため、誤解されている方も多いようですよ」
ルビーの本に刻まれる出版社は、カンターヌにあるものだ。だがそういう事情があったのか、と納得する。
「我が国のこともお詳しいんですね」
「いえ、たまたま耳にしただけです。では何かありましたらお呼び下さい」
「はい……。ありがとうございます」
一揖して出て行ったジョシュアを見送ると、リンゼイの口から嘆息が漏れた。
本の話題があったから、ジョシュアと普通に話せた。泣いていたことも、告白もなかったかのように。
いや、そもそも真にふたりの間になにもないに等しい。キャンディスのように自分は彼の心を乱す存在でもなければ、告白も子供じみたものだったせいで、本気で受け止めてはないのかもしれない。
リンゼイはジョシュアが出て行った扉を見詰め、そっと寝台から抜け出す。
そしてドレッサーを一点に見詰めたあと、隣の部屋に行き、バルコニーのある大きな窓を開けた。
ライラが言った通りだ。突き抜けるような青空が天を包んでいる。
同じ空の下だというのに、祖国とはどことなく違う空気を胸に吸い込む。
その胸になにを思ったのか──僅かに伏せた瞼の奥にある彼女の哀しげな瞳は、青空に似つかわしくない影を帯びていた。
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