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王女様の不埒な暴走
第1章 物語のような恋の始まり



 近隣の他国が捨てつつある因習をカンターヌでは粛々と守り続け、王族や貴族の女児は社交界へのデビューを果たすまで家で淑女としての嗜みを学び、家の者以外の男性とはほとんど会う機会すらない。


 友人も父や母の友人の娘や息子くらいしかおらず、年に二回か三回行く保養地とこの王城がリンゼイの小さな世界のすべてだ。


 その小さな世界での楽しみは自然と触れること、昼のお茶の時間、それに読書だ。


 外の世界に憧れ、窮屈に感じることもしばしばあったが、数少ない楽しみのひとつである読書が、この美しい男の役に立てる日が来るなど、リンゼイ本人さえ予想だにしていなかった。


「あ、これでしたらあそこに……。それはあちらですわ」


 ジョシュアがリンゼイに与えてくれた簡単な仕事。これに関する書物はどこにあるかを訊ねられ、それにリンゼイが答える。それだけなのに、ジョシュアの役に立っていると思うと嬉しくて堪らない。


 王太子付きの執事ならば、そこらの執事よりもきっと優秀で、リンゼイがおらずとも時間をかけずに書物を探し出すのも可能だろうのに、彼はひとつひとつわざわざ訊ねてくれた。



 暇を持て余し、誰かに構って欲しいだけと思われていても構わなかった。


 もう暫くしたら国へと帰っていってしまうジョシュアと過ごせる限られた時間を、リンゼイは少しも無駄にしたくはなかったのだから。





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