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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密



 クスクスと忍び笑うジョシュアを尻目に、リンゼイは顔を向けた先にあるチェストの上に置かれる畳まれたハンカチーフに気を留める。


 ジョシュアの部屋は実に彼らしく、整理整頓され、掃除も行き届いている。脱ぎ散らかした服もなければ、飾られる刺繍以外の置物もなく。机に置いてある数冊の本と羽ペンとインクはあるが、余分なものはすべてしまわれているのだ。


 だから余計に眼に入った薄いブルーのハンカチーフ。数歩歩いた先にあるチェストに引き寄せられるようにリンゼイは何気なく歩き、そして気づく。


 レースで縁取られたハンカチーフは明らかに女性物。そして濃紺で刺繍された文字――"C.S"という頭文字に、リンゼイはすぐさま思い当たる。


「これ……」


「あ、それは……」


「キャンディス様……のですよね?」


 ハンカチーフを手に取り、ジョシュアを振り仰ぐと、驚きに眼を見開いたあと瞼が伏せられる。


「……レオ様からなにかお聞きになったんですか」


「……これもジョシュアさんがお縫いになったんですか」


 リンゼイは迷ったがその問いには答えず、聞き返す。


「ええ。ご結婚されるときに身に着けていただきたくて」


 なるほど、サムシングブルーというわけか。ハンカチーフ程度のものならば、ドレスの胸元に忍ばせておける。キャンディスの幸運を願い、彼がひと針ひと針縫った様が思い浮かんだ。




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