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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密




 王女という地位にありながら、ジョシュアとキャンディスの力にもなれないのか──いや、ひとつだけあったと思い至る。


「……ジョシュアさん。これ、キャンディス様にお渡ししましょう?」


「なにをおっしゃって……?」


「私、夜会で侯爵夫人にお茶会に誘われたんです。そのときはこれからの予定もあり、すぐにお受けはできなかったんですが、殿下に頼み、お茶会に参加させてもらいますから」


 リンゼイが二人のために出来る唯一の力添えは、このハンカチーフを渡す手助けをすることだ。ただひとつ気がかりなのは、キャンディスの気持ち。リンゼイもジョシュアに直接祝福されたくないと思った。ならば彼女もそうなのでは……。


「……お茶会は昼間に行われます。人の眼もありますし、直接お渡しは出来ないでしょう。だからこれは私が預かり、必ずキャンディス様にお渡しします」


 どんな形であっても、自分の愛した男から贈られた物が手許にあるということは、辛いことがあったときの支えになるものだ。


 それを見て、胸が痛むときもあるだろう。けれど、幸せだった記憶も思い出される。


 愛した人に愛された記憶が──。






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