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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密




「お前、伯爵家の者だって本当か?」


 他の使用人の手前、ジョシュアの身分を明かさないように父が男爵に頼んでいたはずが、ロイドはなぜか知っていた。男爵か夫人のどちらかが口を滑らせたのだろう。


「私の身分がなんであれ、今はただの下働きです。ロイド様もそのようにお考えください」


「そうか、ならお前。俺の馬になれ」


 鼻を膨らませ、ふんぞり返って四つん這いになれと横柄に命令してくるロイドに、ジョシュアは悠然と接する。


「ええ、構いませんよ。ロイド様はまだ赤ん坊でいらっしゃるのですね。でしたら私が馬となり、どこへなりともお運びいたします」


「なんだと!? この俺が赤ん坊だと!? どこをどう見れば赤ん坊に見えるんだ!!」


 真っ赤になって激怒するロイドに、それでもジョシュアは悠然と構える。


「おや、違いましたか。これは失礼いたしました。馬遊びは赤子がするものですので、てっきりロイド様は赤ん坊なのかと勘違いしただけです」


「もういい! 話にならん!」


 ロイドがいくらからかってきても、ジョシュアは機転を利かせて追い払っていたので、彼のこともほとんど気にはしていなかった。


 ジョシュアが大切なのは一日も早く借金を返し、家族の元へ帰ること。腹が立つことを言われようが、大したことではなかったのだ。





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