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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密
だがこの下働きの日々が突如として暗転したのは、働き出して一年を過ぎた頃だった。
その兆しは以前からあった。あれはそう──妹のキャンディスが生まれた報せを受け、一度実家に顔を出したあとすぐだっただろうか。
毎週のように届いていた手紙が月に二度に減り、一度に減り……。手紙にはこちらは何も心配ない、勉強を怠らないように、そして身体に気を付けてと書いてあったが、減りゆく手紙に不安を覚えずにはいられなかった。
そしてその手紙もピタリと止んでしまった。不安になったジョシュアは男爵夫人に直接聞きに行った。
「奥様、すみません。私宛に父から手紙は届いてないでしょうか?」
「手紙? 知らないわ。それよりもお前。下働きが気安く私に話しかけないでちょうだい」
今までも決して目にかけてもらえてるとは言い難かったが、こうまで冷たくあしらわれたのは初めてだった。そのショックよりも、冷たい態度が父や母、妹の身になにかあったのではと余計に不安を駆りたてる材料になる。
「お願いします。一度実家に帰らせてください。家族の安否を確かめたいのです」
そう言って頼み込むものの、やはり冷たくあしらわれる。
「この前帰ったばかりでしょ? お前は何をしにうちへ来ているの? お前の父が我が家にした借金を返すためでしょう? 余計なことを考えず、もっと働きなさい!」
ぴしゃりと言われ、ジョシュアは黙るしかない。
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