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王女様の不埒な暴走
第1章 物語のような恋の始まり




 リンゼイもジョシュアも庭に咲く赤いカーネーションをモチーフにし、糸を布に通していっているのだが、リンゼイのものはどこからどう見てもカーネーションには到底見えない。それどころか花にさえ見えるか怪しい代物になってしまっている。


 糸はガタガタで、思い描くような形になってくれないのだ。


 一方ジョシュアをそっと盗み見ると、白い手袋をした指で、器用に細かな部分も忠実に再現し、花弁の根元は濃く描き、外側にいくにつれ薄くし、見事なグラデーションまでも造りだしているではないか。


 リンゼイは見事な刺繍に感動を覚えると同時に自分のそれを見て、とてつもなく恥ずかしくなってしまう。


 リンゼイは見た目こそ少女らしい可憐さを備え、カンターヌに降り立った妖精と称されることだってある。だがその見た目とは裏腹に女のたしなみである縫い物も上手く出来ず、どうにも不器用だ。


 部屋で育てていた鉢植えの花も幾度枯らしただろうか……。思い出しても落ち込む回数なのは間違いない。


 今作っている刺繍だって、自分の物とジョシュアの物を比べると、天と地ほどの差がある。彼の好きなことを一緒にして、彼のことを少しでも知りたい。その気持ちから言い出したことなのだが、これでは……。


(不器用な女の子だってジョシュアさんに嫌われちゃわないかしら)


 少し泣きそうになりながら裏面から針を通したときだった。


「いたっ……!」

 
 手許を誤って針先を指に突き刺してしまった。





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