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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密
ジョシュアが暖炉の炭を変えるように言い付けられ、その部屋に向かっている途中、僅かに開いた扉の隙間から夫人の甲高い笑い声が聞こえてきた。
ジョシュアは見つかればまた叩かれると、そのまま通り過ぎようとした瞬間、クラークの名に足を止めた。
「──こんなに上手くいくなんて、笑いが止まらないわ! あの目障りだったクラーク伯爵が夫人共々ようやく死んでくれるなんて!」
父と母が……死んだ?
そんなはずはない、そんなはずは……。そうやって夫人の発言に、ジョシュアは知らずと首を振る。
うっかり落としそうになった炭入りのバケツをどうにか落とさず、ジョシュアは踏み込んで今の話が真実かどうか問い詰めようとした。だが寸でで思い直した。
あの意地悪な夫人がジョシュアに真実を語ってくれはしないだろう、と。
目の前が真っ暗になる思いになりつつ、にわかに信じ難い話に耳を傾ける。
「おいおい。人の不幸を笑うだなんて、趣味が悪いぞ」
夫人を窘めているのは、気弱な男爵の声だ。
「あなたがそんな甘い考えだから、いつまでたっても男爵止まりなのよ!」
夫人はぴしゃりと言い返す。
「あの、人がいいだけで国王さまの覚えがめでたいクラークさえいなければ、これからは我がエドガー家が国王さまからお眼をかけていただけるわ! そうすれば伯爵位だって頂戴できるはずよ!」
野心を嬉々として話す夫人に吐き気を覚える。だがどうしても父母が世を去ったなど、信じられない。適当なことを言っているに違いない。そう信じたかった。
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