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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密



 言葉もなかった。


 家令とて男爵家に忠誠を誓っているはずなのに、身を挺してまで助けてくれると言ったのだ。


 夫人のことは赦せない。きっと一生憎しみを抱き続ける。今でも殺したくて堪らない。


 だがこうまで言ってくれる家令や、何よりもキャンディスのために、自分はここで死ぬわけにいかないと思った。


 こんな時なのに、思い出すのはキャンディスの柔らかな頬や小さく温かい手の温もり。いつの日か妹を見つけ、彼女と暮らしたい。その願いがジョシュアの希望となり、生きる支えとなった。







 それから更に半年が過ぎ、ジョシュアは10歳になった。


 この頃になるとジョシュアの手の甲の傷は更に酷くなり、常に血が滲み、消えない深い切り傷までも出来ているようになった。


 引き攣るような痛みで上手く物が持てず、皿を割ったりすることもあり、それでまた鞭で血飛沫が飛び散るくらいに叩かれる。


「この役立たずが! 皿の分は借金に上乗せしてやるからね!」


 醜悪な顔で嬉々としてジョシュアを叩く夫人。憎しみは一層増したが、ジョシュアは決して顔に出さないようにしていた。


 何としても生き残り、妹に逢いたい。その強い思いで、不思議とどんな屈辱にも耐えられた。




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