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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密
そんなある日のことだ。邸全体が慌ただしくなった。
「王妃さまと王子さまがいらっしゃるのよ! 床の隅々までピカピカに磨きなさい! 埃ひとつ落ちていたらただじゃおかないからね!」
夫人のヒステリックな声が轟き、使用人たちは邸を駆けずり回って王妃と王子を迎える準備に追われている。
ジョシュアも不自由な手で必死に物を運んだり、床磨きをしたりした。
そして王妃たちが到着する報せを受けると、夫人は下働きの使用人には姿を見せないよう言い付け、普段より着飾り上機嫌で出迎えに行ったのだ。
やっと煩い夫人が居なくなったと使用人たちは安堵し、それぞれが仕事をする中、ジョシュアは裏庭の草むしりをすることにした。
土が傷口に入り滲みるのに耐えつつ、草むしりに没頭していると。
「これ、どうしたんだ」
突然子供の声が真横からして、ジョシュアはビクリとして硬直する。
声の方を見ると、身なりのいい小さな子供が膝を抱え、ジョシュアの手に視線を注いでいる。
「なあ、これどうしたんだ」
また同じ質問をされ、慌てて背に手を隠した。
「あ、いえ、これは……」
見たことがない子供だったが、その身なりからすぐに誰か解る。4歳になったばかりだという、レオナルド王子だ。
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