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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密




「あの……王子さまでらっしゃいます、よね?」


「そうだぞ! レオナルドと言う。お前の名はなんと言うんだ?」


 王子は月色の髪を風でサラサラと靡かせ、琥珀色のクリクリとした屈託ない瞳をジョシュアに向けてくる。


「私のような下々の者の名などお聞きになってどうされるんですか」


「"礼儀"というやつらしい。カーラがな、礼儀にはうるさいんだ」


「カーラ?」


「ああ、そうだ。俺の乳母なんだが、怒るとすっごく怖いんだ。怒ったカーラには父上も形無しなんだぞ」


 あはは、と屈託なく王子は笑う。


 国王をも恐れるカーラがどんな女性か興味は湧くが、それよりも、とジョシュアは王子を覗き込む。


「王子さま。なぜこのような所に? ここは王子さまがいらっしゃるような場所ではございませんよ」


 王子は「だって」と言って唇を尖らせる。


「夫人の話はつまらないんだ。それにこの邸なんか変だ」


「変……とおっしゃいますと?」


「うんと……なんか苦しい!」


 息苦しいと言いたかったんだろう。彼は小さいなりにも邸の異常さを敏感に感じ取っていたのだ。







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