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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密




「それでその傷はどうしたんだ? 夫人にやられたのか?」


 ジョシュアの隠した手の傷をまだ気にしていたようで、彼はまたも訊いてきた。


 ジョシュアは苦笑しつつ首を横に振る。


「……いいえ。さぁ、王子さま。黙ってこちらにおいでになったんでしょう? 王妃さまが心配されます。もうお戻り──」


「王子さま!」


 王子を帰そうと促したときだった。夫人の慌てた声が飛んでくる。


「こんな所においででしたか! 心配いたしました!」


 安堵の顔を見せたあと、夫人は恐ろしい形相でジョシュアを睨みつける。


「お前がたぶらかして王子さまをこのような場所まで連れてきたんだね!?」


 夫人は決めつけた口調で怒鳴り、腕を振り上げる。


 殴られると思い、咄嗟に眼を瞑る。直後、パンっと渇いた音がし、ドサリと重たい音がするものの、いくら待っても頬に痛みは来ない。


 恐る恐る眼を開けると、蒼白な顔で口許を手で覆う夫人が立ち尽くしており、視界の端には地面に転がる王子の姿があった。


「きゃあ! レオ!」


 駆け付けた王妃の悲鳴が聴こえ、ますます夫人は蒼白になった。




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