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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密



「はい、王子さま。指を動かすことに慣れれば、徐々に上手く物も掴めるようになりますよ」


「そうか! で、そのリハビリとやらはどんなことをすればいいんだ?」


「最初のうちはあまり力のいらない、細かい作業などがよろしいかと」


「細かくて力のいらない作業か……。じゃあ刺繍なんてどうだ?」


「そうですね、刺繍もいいでしょうね。ですが……」


「よし、ジョシュア! 今日から毎日刺繍に励め。いいな!」


 まだ医師が説明しているにも拘らず、レオナルドはジョシュアに刺繍を勧める。医師は困り顔で肩を竦めている。


 あとからレオナルドの居ないところでこっそり医師が別のリハビリを提案してきたが、その日のうちにジョシュアの元に大量の刺繍糸と布や針が届けられたものだから、刺繍をやらざるを得なくなった。


 刺繍の成果があったか定かでないが、ジョシュアの手は徐々に回復し、細かい作業にも支障をきたさないほどにまでなった。それに伴い、めきめきと刺繍の腕も上がった。


 ジョシュアに刺繍を勧めた張本人のレオナルドは、数年もするとそんなことはすっかり忘れ「お前の趣味もここまで来ると芸術だな」と笑っていた。本当に困った人だ、とジョシュアは肩を竦めるしかなかった。




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