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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密



 傷はすっかり治り、手を動かすのが雑作もなくなっても、深く刻まれた傷跡はいつまでも残り、無遠慮な注視をする者もいた。だが当のジョシュアは全く気にしてはいなかった。


 傷跡があろうが仕事は出来るし、救ってくれたレオナルドの役にも立てる。だから特段気に病むこともなく日々を過ごしていたそんなある日。


「ジョシュア。お前にこれをやる」


 レオナルドに渡されたのは一組の白い手袋だ。それは絹の上等なもので、上級使用人のみ身に着けるのを赦される代物だった。


 当時ジョシュアは下働きからフットマンに上がったばかりで、靴磨きや炭を運ぶなど汚れる仕事も多々あり、絹製の手袋を嵌めるなどとんでもない話だ。そう断ると彼は言う。


「お前はいずれ俺の執事になるんだ。その心構えを今から身に付けておけ」


 彼がジョシュア以上に傷跡を気にしているのはこれまでの言動の端々で感じ取っていた。だがその都度自分は気にしていないから、レオナルドも気にしないでくれと伝えてきた。


 この手袋をレオナルドが渡したのも傷跡を隠すためかどうかは解らないし、彼が言った通り執事の心構えを身に付けさせるためだったかもしれないが、ジョシュアが素直に受け取ったのは幼き日のレオナルドが身を挺して庇ってくれた恩に報いたいと思ったからだ。


 彼の執事になれば、より一層彼の役に立てる。靴磨きや暖炉の火を灯し部屋を暖めるだけではなく、国を背負ってたつ重りを少しでも軽くしてあげたい。そう考えたからだった。





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