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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密



「キャンディス嬢と逢うならすぐにでも侯爵に申し込むが、どうする?」


 妹といつか逢って、兄妹手を取り合って暮らしたい。それがジョシュアの長年の夢だった。だがシュトワール侯爵令嬢となったキャンディスはジョシュアと暮らすよりも、侯爵夫妻の下で暮らしていくほうが彼女のためなのは明らかだ。


 ならばいっそのこと兄がいることを知らないだろう彼女の前に、自分は現れるべきではない。混乱させることをすべきじゃないのだ。


「いえ、お気持ちは有り難く頂戴いたしますが、彼女が幸せに生きているならば、それだけで私は満足です」


 丁重に断ると、レオナルドは苦笑する。


「ジョシュアはそう言うと思った。ではジョシュア・クラークはどうするつもりだ」


「どう、とは?」


「お前にその気があるなら、爵位を得る手助けをしてやれる。ジョシュアほどの能力を持つ人材を、一介の執事にしておくのは惜しい。俺も今や王太子という権力を得た。お前の能力と俺の権力があれば、手続きやなんやらで多少時間はかかるが、爵位を得ることくらいはできるだろ」


「レオ様……」


 ジョシュアは胸に手袋を嵌める右手を当て、迷わず話す。


「それもお気持ちだけ頂戴いたします。ですが私はこの仕事に誇りを持っております。伯爵子息として生きたより長く、あなたの傍に仕えてきました。そしてこれからも、あなたの傍に仕えさせていただきたく存じます」







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