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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密
噂と時を同じくしてキャンディスの表情に翳りが出始めた。
「キャンディス様。どうされたのですか? なにか悩みでも?」
「お兄さま……」
「いけませんよ、キャンディス様。私のことは兄と呼んではいけないと申したではありませんか」
二人で逢うときも"キャンディス様"、"ジョシュアさん"と他人行儀な呼び方をするよう提案したのはジョシュアだ。なぜならキャンディスは侯爵の実の娘であるとされていたから。
父が侯爵に娘の命が狙われる可能性があるため、頼み込んで戸籍を書き替えており、養女ではなく正式な娘となり、そのためレオナルドも探すのに手間取ったわけであるが。
けれど事情が事情だっただけに、レオナルドは侯爵が法に背いたのは黙認してくれたようだった。
「実は私……彼からプロポーズされたんです」
「本当ですか? ではなぜそんな哀しそうな顔をされているんです?」
キャンディスの恋人の男は偶然にも侯爵の遠縁にあたるそうだ。子供がおらず、侯爵家の血筋が絶えてしまうのを憂いていた夫妻の気持ちを知っていた彼女は、偶然だったとは言え血縁の者と恋人になれ、結婚出来たらいいなと語っていたのに。
育ててくれた両親に恩返しができると、そう言っていたのに、プロポーズされても嬉しくないのだろうか。
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