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王女様の不埒な暴走
第8章 王女の持つ鍵と執事の手袋と刺繍の秘密




 きっちりとお仕着せを着たジョシュアは、リンゼイに向かって手を差し出す。


「リンゼイ様。これを外していただけますか」


「え?」


「あなたに外していただきたいんです」


 リンゼイは差し出された白い手袋を嵌めた手に視線を落とし、それでようやく気付く。レオナルドが言っていた"枷"というのはこの手袋のことだったのだと。


 だがレオナルドは間違っている。手袋は枷などではなく、ジョシュアがレオナルドの傍にいる存在意義だ。それを恐らくはリンゼイのために外そうとしている。


 その意味を理解したリンゼイは、両手で丁寧に手袋を外す。徐々に見えてくる彼の手の甲には、想像以上に痛々しい傷跡が深く残っている。だが嘘のように嫌悪感はない。


 すべてを取り去ると、リンゼイはその傷跡を親指で撫で、そっと口づける。


 これは彼が耐えてきた証。幼い身で多くを背負ってきた証だ。そう思うと愛しくて仕方ない。


 リンゼイが顔を上げると言葉もなく二人見つめ合う。それからジョシュアは口角を上げた。


「行ってまいります」


「はい、行ってらっしゃいませ」


 どこへ行くか言わなくても解る。ジョシュアは彼の元へ行ったのだ。


 リンゼイと本当の意味で結ばれる未来のために──。





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