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王女様の不埒な暴走
第1章 物語のような恋の始まり
広大な敷地で働く大勢の使用人たちは、二人の追いかけっこは日常茶飯事であるためか誰も助けてはくれず、すれ違う侍女や従者は一揖して道をあけるだけ。
所謂幼馴染の関係であるリンゼイとスチュワートの戯れとしか思われていないのかもしれない。
だがリンゼイにしてみれば、単なる追いかけっこでもなければスチュワートの気を引くために逃げているわけでもなく。
とにかくこのスチュワートという少年が苦手なのだ。
「来ないでってば!」
歩幅も足の速さも彼が上回り、逃げても無駄なのは承知しているが、どうにか逃げ切りたい一心で声を張り上げる。
「今日はリンゼイとお茶をしようと思っているだけなんだってば! だから逃げるなよ!」
「嘘よ! そういってまた意地悪するもの!」
「しないって! 僕だってもうそんな子供じゃないよ」
徐々に縮まる距離のなか、交わされる会話。
スチュワートの言うことは本当だろうか、と脳裏を掠めるが、すぐさまリンゼイはかぶりを振る。
いいや、そんなはずはない。彼がああ言ってリンゼイを油断させ、過去どれくらい意地悪な悪戯をしかけてきたか。
忘れられない苦い記憶の数々がスチュワートの説得を打ち破り、彼を無視してリンゼイはなおも疾走する。
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