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王女様の不埒な暴走
第10章 迫りくる刻、そして……

ジョシュアが部屋をあとにしてからリンゼイはバルコニーに駆けた。そこから下を臨めば、正面入口前に既に馬に跨がるレオナルドの姿があった。
彼は見送りに出てきている子爵と何か話している。恐らくはリンゼイのことを頼んでいるのだろうが、声はバルコニーまで届かない。
遅れてジョシュアが出てきて、彼も馬に跨がった。
馬の嘶〈イナナ〉きが辺りに轟き、レオナルドが先駆ける。
続くジョシュアは一瞬だけ振り仰ぎ、薄暗くてよくは見えなかったが、リンゼイと眼が合ったように思えた。
リンゼイは無駄だと知りつつもジョシュアと少しでも近づきたくて、バルコニーの手摺りから身を乗り出す。
行ってしまう……。
ジョシュアに別れを告げたくとも、人の眼がある場所では彼の名を呼ぶことも出来ず、叫びたい衝動を抑え、口許を強く覆う。
馬を繰り、レオナルドを追うジョシュアの姿がどんどん小さくなり、やがて見えなくなるまでリンゼイはいつまでも、いつまでも彼の背を追い続けた。
見渡してももうどこにもいないジョシュアの後ろ姿を思い、リンゼイはその場に崩れ落ちる。
けれどリンゼイが立ち上がるために支えてくれる手はもうなく、この先は己の足で立ち上がり進んでいかなければならない現実と向き合い、いつの間にか頬に伝っていた涙を拭い、リンゼイはその場をあとにしたのだった。
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