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王女様の不埒な暴走
第10章 迫りくる刻、そして……

「リンゼイの無事の帰国を祝して」
父の掛け声に、テーブルについた面々がグラスを掲げる。
リンゼイは集まってくれた人たちへ感謝の意を表し、自らもグラスに口を付ける。喉を通る爽やかなブドウ酒の香り。緊張で下がっていた体温が酒で僅かに上がる。
サラダやスープ、魚料理など、皿が空いたそばからどんどん運ばれ、それらを食しつつラインハルトでの暮らしについてや視察の様子などを訊ねられ、ひとつずつ丁寧に答える。
先進的な考えをリンゼイが褒めると父はいい顔をしなかったが、兄は興味深そうだった。
そして、リンゼイが待ち構えていた話題を振られたのは、デザートが運ばれたときだ。
「王さま、その……」
隣に座るスチュワートが、妙にニヤついた顔で父に話しかける。
「おお、おお! そうだった!」
父は上機嫌にスチュワートが言いたげなことを察し、持っていたスプーンを置いてリンゼイに上体を向ける。リンゼイもスプーンに掬ったカカオがたっぷり練り込まれたババロアを口に運ぶのをやめ、父に向き直る。
「リンゼイ、留学の際にした約束を覚えているな?」
「はい。スチュワートとの婚約のことですよね」
リンゼイが唇を引き結ぶと、父はそうだ、とにこやかに頷く。
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