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王女様の不埒な暴走
第10章 迫りくる刻、そして……




「なんだこれは? ……ん? この印は……」


 手紙を受け取った父は封筒の裏にあるラインハルト王家の蜜蝋に首を傾げつつ、家令に一旦手渡し、ペーパーナイフで開封させる。


 中身を家令から受け取り、折り畳まれた手紙を広げ、文面を眼で追う父の顔色がどんどんと険しくなった。


「ど……どういうことだ!?」


 ダイニング中に響き渡る父の怒声。リンゼイ以外、その場にいた全員がビクリとする。


「ご覧の通りですわ。私はこの婚約を──」


「リンゼイ! 一言も喋るな! いいな、一言もだ。私に着いて来なさい」


 父は椅子を倒す勢いで立ち上がる。父の隣に座る母はオロオロと、父とリンゼイを交互に見ていた。姉は兄と顔を見合わせる。スチュワートにいたっては、呆然としていた。


 リンゼイは父の言い付け通り一言も声を発せず、立ち上がる。


 肩を怒らせて颯爽と歩く父が向かうのは書斎だろう。前のリンゼイならば怒鳴られることに怯えていただろうが、こうなると覚悟してゆえか、それとも想いの強さがそうさせているのか、不思議と恐怖はない。


 リンゼイたちをふたつの影が追いかけるが、リンゼイの意識は父へ向けられており気が付いてなかった。




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